学会指針

学会指針、見解、ガイドラインの遵守

有限会社胎児生命科学センターは、(社)日本産科婦人科学会の「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」(2013年年6月22日)をはじめ、(社)日本人類遺伝学会の 「遺伝学的検査としての染色体検査ガイドライン」(2006年10月17日)、遺伝医学関連学会の「遺伝学的検査に関するガイドライン」(2003年年8月)、日本医学会の「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」 (2011年2月)、日本医学会・出生前検査認証制度等運営委員会の「NIPT等の出生前検査に関する情報提供及び施設(医療機関・検査分析機関)認証の指針(2022年3月16日)等の学会指針・見解・ガイドライン等を遵守して検査業務を実施しております。

 

出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解

日本産科婦人科学会は、昭和63年1月、「先天異常の胎児診断、特に妊娠絨毛検査に関する見解」を発表し、妊娠前半期に胎児診断を行うに際し、本学会会員がこれら見解を遵守するように求めてまいりました。

以来、わが国における胎児医療の水準は、世界的な技術の向上に歩調を合わせ、めざましい進歩を遂げてきました。
特に、胎児を対象とした診断は、新たな技術の開発、対象となる疾患の多様化等、著しい変容をみせ、かかる医療技術への要求も多面的なものとなっています。それに加えて、すべての医療技術が高いレベルでの安全性、倫理性、社会性を担保することについての社会の要請はますます大きくなっております。このような現代社会の生殖・周産期医療に対する期待を踏まえて「先天異常の胎児診断、特に妊娠絨毛検査に関する見解」(昭和63年1月)をみると、この見解は必ずしも時代の要求に合っているものとはいえません。


ここに、本学会は「先天異常の胎児診断、特に妊娠絨毛検査に関する見解」(昭和63年1月)については、これを廃し、現代社会の情勢、法的基盤の整備、倫理的観点を考慮しつつ、生殖・周産期医療の現状および将来の進歩の可能性に立脚した新たな見解「出生前に行われる検査および診断に関する見解」を発表することといたしました。

学会は、本学会会員が診療を行うにあたり、この新見解を厳重に遵守されることを要望いたします。

平成19年4月
社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 吉村 泰典
倫理委員会委員長 星合  昊

 


 

妊婦の管理は、母体が安全に妊娠・出産を経験できることを旨とするが、同時に胎児の異常を早期に診断し、もって児の健康の向上、あるいは児の適切な養育環境を提供する判断材料に資するものでもある。胎児の検査・診断に関しては、胎児異常の有無の検索と重篤な疾患が強く疑われる場合の検査に大別される。特に後者において遺伝学的検査を実施するにあたっては、日本産科婦人科学会ならびに遺伝医学関連学会による「遺伝学的検査に関するガイドライン」[1]を遵守し、さらに出生前検査および診断については下記の事項を遵守する。なお、 妊娠前半期に行われる出生前検査および診断には、羊水、絨毛、その他の胎児試料、母体血中胎児由来細胞などを用いた細胞遺伝学的、遺伝生化学的、分子遺伝学的、細胞・病理学的方法、および超音波検査などを用いた画像診断的方法などがある。

出生前検査および診断として遺伝学的検査および診断を行うにあたっては、倫理的および社会的問題を包含していることに留意しなければならず、特に以下の点に注意して実施しなければならない。

1) 胎児が罹患児である可能性および検査を行う意義、検査法の診断限界、母体・胎児に対する危険性、合併症、検査結果判明後の対応、 等について検査前によく説明し、十分な遺伝カウンセリングを行うこと。
2) 胎児試料採取の実施は、十分な基礎的研修を行い、安全かつ確実な技術を習得した産婦人科医により、またはその指導のもとに行われること。
絨毛採取、羊水穿刺など、侵襲的な出生前検査および診断(胎児試料、母体血中胎児由来細胞を用いた検査を含む)については、下記のような場合の妊娠について、夫婦からの希望[注]があり、検査の意義について十分な遺伝カウンセリング等による理解が得られた場合に行う。

1) 夫婦のいずれかが、染色体異常の保因者である場合
2) 染色体異常症に罹患した児を妊娠、分娩した既往を有する場合
3) 高齢妊娠の場合
4) 妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
5) 夫婦の両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
6) 夫婦の一方もしくは両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
7) その他、胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合

重篤なX連鎖遺伝病のために検査が行われる場合を除き、胎児の性別を告げてはならない。

法的措置の場合を除き、出生前親子鑑定など医療目的ではない遺伝子解析・検査のために、羊水穿刺など侵襲的医療行為を行わない。

着床前検査および診断は、極めて高度な知識・技術を要するいまだ研究段階にある遺伝学的検査を用いた医療技術であり、倫理的側面からもより慎重に取り扱わ なければならない。

実施に際しては、日本産科婦人科学会「着床前診断に関する見解」と「着床前診断に関する見解に対する解説 」[5、6、7]、および日本産科婦人科学会「習慣流産に対する着床前診断に関する見解」と「習慣流産に対する着床前診断に関する見解に対する考え方(解 説)」[8]を遵守する。

母体血清マーカー検査の取り扱いに関しては、厚生科学審議会先端医療技術評価部会出生前診断に関する専門委員会による「母体血清マーカー検査に関する見 解」[2]、日本人類遺伝学会倫理審議委員会による「母体血清マーカー検査に関する見解」[3]および日本産科婦人科学会周産期委員会による報告「母体血 清マーカー検査に関する見解について」[4]を十分に尊重して施行する。

出生前診断技術の精度については、常にその向上に努めなければならない。

遺伝学的検査の適切な実施については、厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」[9]の中に、「遺伝情 報を診療に活用する場合の取扱い」の項目[1]があり、遺伝医学関連学会による「遺伝学的検査に関するガイドライン」とともに遵守すること。
またこれらが 改定された場合には、本見解もその趣旨に沿って改定を行うものとする。

 

  • 遺伝学的検査の適切な実施について・遺伝学的検査に関するガイドライン.日本産科婦人科学会雑誌 57:1768-1783, 2005
  • 「母体血清マーカー検査に関する見解」厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会. 1999(平成11)年6月23日
    https://www1.mhlw.go.jp/houdou/1107/h0721-1_18.html
  • 「日本人類遺伝学会倫理審議委員会の母体血清マーカー検査に関する見解」1998(平成10)年1月19日. 【J Hum Genet, 43(3),1998にて誌上通知】
  • 「母体血清マーカー検査に関する見解について」1999年5月【寺尾俊彦・周産期委員会報告. 日本産科婦人科学会雑誌 51: 823-826, 1999にて誌上通知】
  • 「ヒトの体外受精・胚移植の臨床応用の範囲」についての見解. 日本産科婦人科学会. 1998(平成10)年10月
  • 「着床前診断」に関する見解. 日本産科婦人科学会. 1998(平成10)年10月
  • 「着床前診断」に関する見解に対する解説.日本産科婦人科学会.2006(平成18)年12月16日改定
  • 「習慣流産に対する着床前診断に関する見解」と「習慣流産に対する着床前診断に関する見解に対する考え方(解説)」.日本産科婦人科学会. 2006(平成18)年2月
  • 医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン.厚生労働省.平成18年4月21日改正
    https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/dl/170805-11a.pdf

[注]夫婦の希望が最終的に一致しない場合は、妊婦の希望が優先されるという意見がある。

 

出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解

「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」の改定について

 日本産科婦人科学会は昭和63 年1 月「先天異常の胎児診断、特に妊娠絨毛検査に関する見解」を、また、平成19 年4 月には「出生前に行われる検査および診断に関する見解」を提示し、その後平成23 年6 月には、生殖・周産期医療における診療環境、それを取り巻く社会情勢、法的基盤、出生前遺伝学的検査に求められる安全性、倫理性、社会性を考慮して、「出生前に行われる検査および診断に関する見解」を改定しました。しかし対象となる疾患は多様化する一方、新たな分子遺伝学的解析・検査技術を用いた胎児診断法が世界的にもきわめて急速に発展し、広まってきており、これらの視点からの見直しが再び求められています。そこで、本会はこのような診療環境のなかで現行の「出生前に行われる検査および診断に関する見解」を補足・追加するとともに一部改定した改定案を提示いたしました。本改定案は、平成25年6月22日開催日本産科婦人科学会総会において承認されましたので、ここに「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」を示します。また同時に「先天異常の胎児診断、特に妊娠絨毛検査に関する見解」を廃するものといたします。
 これら出生前に行われる遺伝学的検査および診断には、胎児の生命にかかわる社会的および倫理的に留意すべき多くの課題が含まれており、遺伝子の変化に基づく疾患・病態や遺伝型を人の多様性として理解し、その多様性と独自性を尊重する姿勢で臨むことが重要です。
 日本産科婦人科学会は本学会会員が診療を行うにあたり、この見解を厳重に遵守されることを要望いたします。また、遺伝学的検査の実施にあたっては本学会でも承認された日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」(平成23年2月)を遵守し、そこに掲げられた理念を尊重することを併せ求めます。

 

平成25年6月22日
公益社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 小西郁生
倫理委員会委員長 落合和徳

 

「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」

 妊娠の管理の目標は、妊娠が安全に経過し、分娩に至ることであるが、同時に児の健康の向上や、適切な養育環境を提供することでもある。基本的な理念として出生前に行われる検査および診断はこのような目的をもって実施される。しかし、医学的にも社会的および倫理的にも留意すべき多くの課題があることから、本見解において出生前に行われる遺伝学的検査および診断を実施する際に、留意し遵守すべき事項を示した。

1)  出生前に行われる遺伝学的検査および診断の概念:
 遺伝学的検査とは、ヒト生殖細胞系列における遺伝子変異もしくは染色体異常、先天異常に関する検査、あるいはそれらに関連する検査であり、染色体検査・遺伝生化学的検査・遺伝子診断、検査等が該当する。妊娠中に胎児が何らかの疾患に罹患していると思われる場合に、その正確な病態を知る目的で前項の検査を実施し、診断を行うことが出生前に行われる遺伝学的検査および診断の基本的な概念である。

2)  出生前に行われる遺伝学的検査および診断は、十分な遺伝医学の基礎的・臨床的知識のある専門職(臨床遺伝専門医等)による適正な遺伝カウンセリングが提供できる体制下で実施すべきである。また、関係医療者はその知識の習熟、技術の向上に努めなければならない。

 (解説)
・遺伝カウンセリングとは遺伝性疾患の患者、あるいはその可能性を持つ者、家族に対してその後の選択を自らの意思で決定し行動できるよう臨床遺伝学的診断、医学的判断に基づき適切な情報を提供し、支援する診療行為である。

3)  出生前に行われる遺伝学的検査および診断の区分:
  出生前に行われる遺伝学的検査には、確定診断を目的とする検査と非確定的な検査があり、その技術・手法は多様化し、かつ急速に発展している。実施する医師はその意義を十分理解した上で、妊婦および夫(パートナー)等にも検査の特性、得られる情報の診断的評価、さらに、遺伝医学的診断意義等について検査前によく説明し、適切な遺伝カウンセリングを行った上で、インフォームドコンセントを得て実施する。

 (解説)
・確定診断を目的とする遺伝学的検査とは、主として羊水、絨毛、臍帯血、母体血液中等の胎児・胎盤由来細胞やDNA/RNA、その他の胎児の細胞や組織を用いて、染色体、遺伝子、酵素活性や病理組織等を調べる細胞遺伝学的、遺伝生化学的、分子遺伝学的、細胞・病理学的方法が該当する。これらの詳細は項目4)に示す。
・新たな分子遺伝学的技術については得られた結果が確定診断の検査となる場合がある一方で、非確定的な検査となる場合もある。これらの詳細は項目5)に示す。
・非確定的とは、主として母体血清マーカー検査(母体血液中の胎児または胎児付属物に由来する妊娠関連タンパク質の測定による血液生化学的検査)をはじめ、超音波検査の一部が該当する。これらの詳細は項目6)に示す。なお妊婦健診での超音波検査は、遺伝学的検査には含まないものとする。

4)  確定診断を目的とする出生前に行われる遺伝学的検査および診断の実施について:
 遺伝学的検査については、日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」[1]を遵守して実施することが定められているが、さらに出生前に行われる遺伝学的検査および診断については、医学的、倫理的および社会的問題を包含していることに留意し、特に以下の点に注意して実施しなければならない。
 (1)胎児が罹患している可能性や該当する疾患、異常に関する病態、診療、支援体制、社会環境、また検査を行う意義、診断限界、母体・胎児に対する危険性、合併症、検査結果判明後の対応等について十分な遺伝医学の基礎的・臨床的知識のある専門職(臨床遺伝専門医等)が検査前によく説明し、前述の情報提供を含む適切な遺伝カウンセリングを行った上で、インフォームドコンセントを得て実施すること。
 (2)検体採取の実施は、十分な基礎的研修を行い、安全かつ確実な技術を習得した医師により、またはその指導のもとに行われること。
 (3)絨毛採取や、羊水穿刺など侵襲的な検査(胎児検体を用いた検査を含む)については、表1の各号のいずれかに該当する場合の妊娠について、夫婦ないしカップル(以下夫婦と表記)からの希望があった場合に、検査前によく説明し適切な遺伝カウンセリングを行った上で、インフォームドコンセントを得て実施する。

表1 侵襲的な検査や新たな分子遺伝学的技術を用いた検査の実施要件
1. 夫婦のいずれかが、染色体異常の保因者である場合
2. 染色体異常症に罹患した児を妊娠、分娩した既往を有する場合
3. 高齢妊娠の場合
4. 妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX連鎖遺伝病のヘテロ接合体の場合
5. 夫婦の両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体劣性遺伝病のヘテロ接合体の場合
6. 夫婦の一方もしくは両者が、新生児期もしくは小児期に発症する重篤な常染色体優性遺伝病のヘテロ接合体の場合
7.その他、胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合

 (解説)
・遺伝カウンセリングでは検査施行前に、当該疾患や、異常の情報提供を行うとともに、胎児が罹患している可能性、検査を行うことでどこまで正確な診断ができるのか、診断ができた場合にはそれがどのような意義を持つか、また児が罹患している場合の妊娠中の胎児の健康状態、出生した後に要する医療、ケアー等についてあわせて説明する。なお、遺伝カウンセリングにおいては、罹患の可能性のある疾病、異常に携わる医療者、患者支援組織(者)からの情報等も適切に取り入れることが重要である。
・出生前に行われる遺伝学的検査および診断は、夫婦からの希望がある場合に実施する。夫婦の希望が最終的に一致しない場合は、妊婦の希望が優先されることもあるが、こうした状態での実施は望ましくなく、十分に話し合う機会を設けて、夫婦の理解、同意が統一されることが望ましい。
・「その他、胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場合」とは、たとえば、超音波検査により胎児に形態的または機能的異常が認められたような場合である。こうした状況では夫婦に原因となる何らかの遺伝学的要因が認められることもあるが、夫婦には明らかな要因がなく胎児に異常が生じていることがある。これらの状況を踏まえて、個別の事例に応じて、診断の可能性と、選択する手技手法をあらかじめ十分検討し、適切に実施する。
・羊水検査:
 羊水検査は原則として、妊娠15 週以降に経腹的に羊水穿刺を行う。妊娠15 週未満に行う早期羊水穿刺や経腟的羊水穿刺は、その安全性が確認されていないことから標準的な検査方法とはいえない。
・絨毛検査:
 絨毛検査を行うための絨毛採取の方法には経腹法と経腟法があり、妊娠10 週以降14週までが標準的な実施時期である。また、妊娠10 週未満では安全性が確認されていないことから行うべきではない[2,3]。絨毛採取では約1%に染色体モザイクが検出され、そのほとんどは染色体異常が絨毛組織・胎盤に限局した胎盤限局性モザイク(confined placental mosaicism: CPM)であり、胎児の染色体は正常である。このような場合は羊水検査による胎児染色体の再確認が必要である[3,4]。

5)  新たな分子遺伝学的技術を用いた検査の実施について:
 従来の侵襲的な検査方法(羊水検査や絨毛検査)により得られた胎児細胞を用いる場合であっても、母体血液中等に存在する胎児・胎盤由来細胞やDNA/RNA等の非侵襲的に採取された検体を用いる場合であってもマイクロアレイ染色体検査法(アレイCGH法、SNP アレイ法等)や全ゲノムを対象とした網羅的な分子遺伝学的解析・検査手法を用いた診断については表1の各号のいずれかに該当する場合の妊娠について夫婦から希望があった場合に十分な遺伝医学的専門知識を備えた専門職(原則として臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、遺伝専門看護職)が検査前に適切な遺伝カウンセリングを行った上で、インフォームドコンセントを得て実施する。なお母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査の実施にあたっては「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」日本産科婦人科学会[5]を遵守して実施する。

 (解説)
・母体血液中に存在する胎児DNA を用いて胎児が染色体異常に罹患している可能性を従来よりも高い精度で推定する検査が実施されている[6]。こうした母体血液中に存在する胎児・胎盤由来細胞やDNA/RNA 等による遺伝学的検査については検体採取の簡便さから安易に実施される可能性があるので、検査の限界、結果の遺伝学的意義について検査前の時点から十分な情報提供が遺伝カウンセリングとして実施され、検査を受ける夫婦がこれらの内容を十分理解し、同意が得られた場合に実施する。
 またこの検査の提供にあたっては、表1の各号のいずれかに該当し、かつ検査対象となる疾患に関してこの検査の診断意義があることを前提とした上で検査を希望する妊婦に個別に遺伝カウンセリングが行われ、提供すべきであり、決して全妊婦を対象としたマス・スクリーニング検査として提供してはならない。
・マイクロアレイ染色体検査法(アレイCGH法、SNP アレイ法等)や全ゲノムを対象とした網羅的な分子遺伝学的解析・検査手法を用いた診断については得られる結果が臨床医学的にも遺伝医学的にもまだ明確でない遺伝医学的情報が多く、さらに結果が示す情報は多種多様であり、その意義づけや解釈が難しいことも多く含まれることから検査前・検査後に専門的な遺伝カウンセリングの場で適切な情報提供、説明が行われる必要がある。

6)  非確定的な検査の実施について:
 母体血清マーカー検査や超音波検査を用いたNT (nuchal translucency)の測定等のソフトマーカーの同定は非確定的な遺伝学的検査に位置付けられる。これを意図し、予定して実施する場合には、検査前に遺伝カウンセリングを十分に行う必要がある。出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関わる超音波診断に関しては、超音波医学に十分習熟した知識を有する専門職(超音波専門医等)が実施するなどして、その検査を受ける意義と結果の解釈等について理解を得られるように説明し、検査を受けた後にどのような判断が求められ、その対応や、さらに方向性を選択することになるか、またこれらの場合に引き続き確定診断を目的とする遺伝学的検査等へ進む場合には再度遺伝カウンセリングを行った上でインフォームドコンセントを得て実施する。なお、非確定的な検査を実施する前にこれらの確定診断に至る過程を十分に説明しておく必要がある。

 (解説)
・妊娠初期の超音波検査による所見について:
 超音波検査により得られる所見のうち、直接的に胎児の異常を示すわけではないが、その所見が得られた場合にはそれに対応した胎児異常の存在する確率が上昇すると報告されている所見があり、これらはソフトマーカーと呼ばれる。これには胎児後頸部の浮腫(NT)、鼻骨低形成(欠損)、といった所見などが報告されている。諸外国ではこうした超音波検査によるソフトマーカーの一部(NT等)を母体血清マーカー検査と組み合わせて、胎児異常の確率を算出するスクリーニングプログラムも提供されている。しかし、日本人における信頼性のある基準データは現在のところ、存在しないので、実施する場合にはその点を十分に考慮する。なおNTに関しては日本産科婦人科学会産婦人科診療ガイドライン産科編においてその取り扱いが述べられている[7]。
・母体血清マーカー検査:
 本検査の取り扱いに関しては、従来より日本産科婦人科学会周産期委員会による報告「母体血清マーカー検査に関する見解について」と厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会による「母体血清マーカー検査に関する見解」[8,9]に準拠して施行されてきた。
 一方これらのガイドライン等が示されてから10 年以上が経過しており、妊婦や社会の母体血清マーカー検査に対する認識、遺伝カウンセリング体制の整備状況が進んでいる。米国ではACOG のガイドラインで、年齢にかかわらず、すべての妊婦に染色体異常のスクリーニング検査を提供すべきである[10]、としており、英国では政府の政策としてNational Health Service: NHS がスクリーニングプログラムを全妊婦に提供している[11]。我が国においては、これらの状況も踏まえ、産婦人科医が妊婦に対して母体血清マーカー検査を行う場合には、切かつ十分な遺伝カウンセリングを提供できる体制を整え、適切に情報を提供することが求められている。また、 検査を受けるかどうかは妊婦本人が熟慮の上で判断・選択するものであり、検査を受けるように指示的な説明をしたり、通常の妊婦健診での血液検査と誤解するような説明をして通常の定期検査として実施するようなことがあってはならない。
・母体血清マーカー検査の結果の説明:
 検査結果の説明にあたっては、単に「陽性、陰性」と伝えるような誤解を招きやすい説明は避け、わかりやすく具体的に説明する。本検査は通常の臨床検査とは異なりその意義や結果の解釈の理解が難しいことから、本検査に関わる医師はその内容や解釈について十分な知識と説明ならびに遺伝カウンセリング能力を備えなければならない。

7)  画像検査(超音波検査等)で意図せずに偶然にみつかる所見について:
 画像検査(超音波検査等)中にソフトマーカー等の胎児異常を示唆する所見を偶然に同定する場合がある。またソフトマーカーでなく実際の胎児異常所見であっても、妊婦に告知する場合には、その意義について理解を得られるように説明し、その後に妊婦がどのような対応を選択できるかについても提示する必要がある。

8)  胎児の性別告知については出生前に行われる遺伝学的検査および診断として取り扱う場合は個別の症例ごとに慎重に判断する。

9)  法的措置の場合を除き、出生前親子鑑定など医療目的ではない遺伝子解析・検査を行ってはならない。

10)  着床前診断に関しては別途日本産科婦人科学会見解で定めるところにより実施されるものとする[12]。

11)  日本産科婦人科学会の会告はもちろん、日本医学会によるところの「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」[1]をはじめ、遺伝学的検査に関する法令、国の諸規定や学会等のガイドラインを遵守すること。

 (解説)
・遺伝学的検査の適切な実施については、厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」[13]の中に、「遺伝情報を診療に活用する場合の取扱い」の項目があり、日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」[1]とともに遵守すること。またこれらが改定された場合には、本見解もその趣旨に沿って改定を行うものとする。

 

[1]日本医学会「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」[1]
 http://jams.med.or.jp/guideline/genetics-diagnosis.html(2011 年2 月)
[2]Alfirevic Z, Mujezinovic F, Sundberg K. Amniocentesis and chorionic villus sampling for prenatal diagnosis (Review), Cochrane review, Issue 2, 2009
[3]Monni G, Ibba RM, Zoppi MA. Prenatal genetic diagnosis through chorionic villus sampling, In Genetic disorders and the fetus, diagnosis, prevention and treatment (6th edn), Milunsky A, Milunsky J (ed.), Wiley-Blackwell, West Sussex, UK, pp161-193, 2010
[4]Invasive prenatal testing for aneuploidy. ACOG Practice Bulletin number 88, American College of Obstetrics and Gynecology, 2007
[5]「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する指針」日本産科婦人科学会と「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に関する共同声明」日本医師会・日本医学会・日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会・日本人類遺伝学会 2013(平成25)年3月9日
[6]Noninvasive Prenatal Testing for Fetal Aneuploidy :Committee opinion, The American College of Obstetricians and Gynecologists, Number 545, December 2012
[7]CQ106, NT(nuchal translucency)肥厚が認められたときの対応は?, 37-41 産婦人科診療ガイドライン産科編2011
[8]「母体血清マーカー検査に関する見解について」1999 年5 月【寺尾俊彦・周産期委員会報告. 日本産科婦人科学会雑誌 51: 823-826, 1999 にて誌上通知】
[9]「母体血清マーカー検査に関する見解」厚生科学審議会先端医療技術評価部会・出生前診断に関する専門委員会. 1999(平成11)年6 月23 日
[10]Screening for fetal chromosome abnormalities. ACOG Practice Bulletin number 77, American College of Obstetrics and Gynecology, 2007
[11]NHS Fetal Anomaly Screening Programme.
 http://fetalanomaly.screening.nhs.uk/
[12]「着床前診断に関する見解」と「習慣流産に対する着床前診断についての考え方(解説)」.日本産科婦人科学会.2010(平成22)年6 月 改定
[13]医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドラ
イン.厚生労働省.平成18 年4 月21 日改正
 https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/dl/170805-11a.pdf

 

(「先天異常の胎児診断、特に妊娠初期絨毛検査に関する見解」として発表、
昭和63年1月、会長 須川 佶)
(「出生前に行われる検査および診断に関する見解」へ改定、
平成19年4月、理事長 吉村泰典、倫理委員会委員長 星合  昊)
(平成23年6月改定、理事長 吉村泰典、倫理委員会委員長 嘉村敏治)
(「出生前に行われる遺伝学的検査および診断に関する見解」へ改定、
平成25年6月、理事長 小西郁生、倫理委員会委員長 落合和徳)