ウィルス感染

 新型コロナウィルスが蔓延し、世界政治も経済も未曾有の危機状態に陥っていますが、ウィルスとは何でしょうと聞かれたときに即答できるひとは多くないでしょう。

 細菌感染が病気の原因になっているという疑いがもたれたのはやっと19世紀になってからです。ドイツのロベルト・コッホによる結核菌とコレラ菌の発見を契機に「感染症は病原性細菌によって起こる」という概念がこの時代を風靡しました。日本では北里柴三郎によるペスト菌、志賀潔による赤痢菌の発見は感染症の研究発展におおいに貢献しました。19世紀末に細菌よりも微小で細菌濾過器を通過しても感染性を失わず、顕微鏡でも観察できない病原体が存在することが報告されました。これがウィルスと呼ばれるものです。この物質は細胞でなく、基本的にはタンパク質と核酸(RNAやDNA)からなる粒子で、単独では生存できず他の生物の細胞に寄生したときのみ増殖できる、今はやりの「パラサイト」のようなものです。

 ウィルス感染は、様々な病気の原因となり、新型コロナウィルスもその一つです。インフルエンザや天然痘、麻疹(はしか)、風疹(三日ばしか)後天性免疫不全症候群(AIDS)などもウィルス感染症に属しています。これらのウィルスのなかにはパンデミック(全国的な大流行)を起こして人類に多大な犠牲者をだすことがあります。これら以外に、肝炎ウィルス(肝がん)、人T細胞白血病ウィルス、人パピローマウィルス(子宮頸がん)など腫瘍と関連したウィルスも存在します。通常、ウィルス感染が起きると免疫応答系が作動し、ウィルスに対する中和抗体を作り感染を防いだり、血中の大型顆粒リンパ球(細胞傷害性T細胞)で感染細胞を殺すことで感染の拡大を防いでいます。現在、新型コロナウィルスの治療には免疫応答を高める薬剤や人工的に免疫を付与するワクチンの開発・産生が急がれていますが、ここしばらくは、「手洗い」、「うがい」、「マスク」で防御するしかないでしょう。